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「父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促進に関する法律案」は、子の利益の観点から親子の関係維持の促進を図ることを目的とする点では、意義深いものと考えます。しかし、その内容については、さらに検討の余地があるように思われます。特に、次の3点を懸念いたします。

・子の意思、個別の事情等への配慮が足りない

法案では、たしかに、子の利益を重視する姿勢はうかがえるものの、離婚後の子と非監護親との継続的な関係の維持が常に子の利益に資することが当然の前提とされています。虐待等があったケースも含め、親子の関係は多種多様です。第9条において「特別の配慮」の可能性が示されていますが、その配慮の内容は必ずしも明らかではありません。

何よりも、成長段階において変化しうる子の意思の尊重等、子の側の事情に言及されていない点に疑問を感じます。

法案が、非監護親の利益ではなく、子の利益の実現を第一の目的とするのであれば、これらへの配慮は欠かせないはずです。

 

・現段階では、安全・安心な面会交流等実施の基盤がない

法案では、子を監護する父または母は、離婚時の面会交流の取り決め(6条)、面会交流の定期的な実施(7条)等に努めなければならないものとされています。しかし、現段階では、これらを円滑かつ有効に行うための基盤が整っていないと言わざるを得ません。

面会交流等、子の監護に関する取決めは、諸外国とは異なり協議離婚が主流の我が国では、夫婦の金銭力・肉体的力の差がその内容に影響を及ぼしているのが現状です。    法的知識がある公平な第三者の支援が受けられる機会は限られています。

また、面会交流の実施も、基本的には当事者に委ねられており、何らかの事情で離れることになった(元)夫婦が子を常に安心・安全に交流させることは、容易ではないはずです。家庭問題情報センター(FPIC)による面会交流援助は極めて貴重な活動ですが、付添いなどの援助にも1回数万円という高額な費用がかかります。無料で支援を行う団体も増えていますが、地域格差等の問題もあり、誰もが気軽に面会交流援助を受けられる状況ではありません。法案の中では、国・地方公共団体による支援(6条2項・3項)や人材の育成(10条)がうたわれていますが、その程度、実効性は明らかではありません。

・養育費不払い問題が見逃されている

現在、離婚後の養育費不払い問題の解決が喫緊の課題となっています。養育費の不払いが子の貧困の一因であることは広く報道されているところですが、3月の国連女子差別撤廃委員会の最終見解においても、子の福祉の観点からこの問題が取り上げられ、財産分与の規律の明確化等とあわせて勧告がなされています。

法案において養育費への言及が乏しいのは(6条のみ)、面会交流の促進を主な柱とする法案の性質上、やむを得ないのかもしれませんが、国際的な視点からはもちろんのこと、国民の目から見ても、やはり、物足りないのではないでしょうか。

また、法案が立法化され、面会交流が非監護親の当然の権利と捉えられるようなことになった場合、面会交流と引き換えでなければ養育費の支払いに応じないという主張がまかり通るようになることを恐れます。子の利益の観点から最優先とされるべき養育費不払い問題への対応が進まない中で、本法案が先行し、面会交流のみが強調されることに不安を感じます。